漆黒の花嫁 - リラの恋人 -



「おはようございます」

「シュリ様、おはようございます」

「‥おはようございます、皆さん」


宿屋から出ると、ロゥさんと二人の従者たちが出迎えてくれた。

みんな慣れているのか、すっきりとした顔をしていて、昨夜遅くまで飲んでいたとはとても思えない。


どうやら起きてくるのが一番遅かったのは、やっぱりあたしだけだったみたいだ。


これでも自分の中ではかなり早起きした方なのになぁ。


昨夜一番最初にベッドに入ったはずのあたしよりも、みんなの方が早起きだった事が少し恥ずかしい。



「おはよう。アカリ」


そこに、アードさんの柔らかな声がかけられた。

どこかへ早朝の散歩にでも出掛けていたのか、ジアリーの背に乗って、柔らかな微笑をこちらに向ける。


い、いいな‥。

二人きりで散歩とか。

しかも馬の背に乗って、とか。


そんな心の声で頭がいっぱいになってしまう前に、慌てて返事をした。


「お、はようございます‥」


早起き、

‥今度からもう少し努力しようかな。





薄暗さの方がまだ濃い早朝。

働き者の町の人たちもきっと、まだ夢の中。


あたしたちはまた、セルロイに向かう為に旅立つ。



「シュリ~!また来てくださいね~!!」



それでも追いかけてくれる人がいたみたいで、ビックリして振り返る。


「シュリ~~!!」

「また歌聴かせてくれよ~!」

「‥は、はい!!お元気でー!!」


酒場にいた人たちだった。

慌てて帽子を取って、大きく両手を振り返す。

その瞬間グラリと身体が傾いで、こちらを見ていた人たちから小さく悲鳴が上がった。


「‥っと。」


背後から回った逞しい腕が、あたしを軽々と受け止めた。


「す、すみませんっ!」


その腕に慌ててしがみつく。


「リリーも大事だけど、もう少し自分の事も用心しないといけないよ?」


すぐ間近で、蒼い瞳があたしを映す。

いきなりの事に、その視線を真っ直ぐ見返せなくて、無意識にきつく抱き締めていたリリーを見下ろし赤くなる。


‥そうだった。

今はもうジアリーの背に乗ってたんだった。


そんな事も一瞬忘れて、子供のように身を乗り出してしまった自分のマヌケさにイヤになりそうになる。


呆れられたかも‥。




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