漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
項垂れていると、耳元で囁かれた。
「可愛らしくて良いけどね。」
「‥‥っ!」
金魚のようにパクパクしながらアードさんを振り仰ぐと、目元だけ笑いのカタチにして「ほら、危ないよ」と注意される。
すみません、と条件反射で返事をしてしまうけれど、内心は別の事を思ってる。
‥アードさん、最近意地悪だ。
‥‥いや、からかわれてる‥?
それは間違いない。
と、いうか。
‥‥‥面白がってる。
絶対、そう。
動揺するようなセリフを言った後のその瞳が、笑みのカタチになってるのがその証拠。
‥そういう人だったのね?
彼を振り仰ぐと、「ん?」と何でもないような顔をされる。
その表情にさえクラッとしそうになるっていうのに。
か、身体がもたない‥ぜったい‥。
「慕われてるね」
一人モンモンとしていると、急にそんな言葉がかけられた。
「え?」と振り返ると、優しげな瞳をしたアードさんと視線が出合って、ドキリとする。
「やはり君の歌声には魔力が宿っている。人を魅了して、虜にしてしまう魔力。‥不思議な力だ」
その瞳に見惚れてしまって、あたしはしばらく何も言えなかった。
彼は静かに続ける。
「君はきっと、たくさんの人から好かれる存在となる」
「そ、そんな事‥」
あたしは首を振った。
だって、
昨夜はあんなに怖い想いもした。
‥妬まれるような事も、きっとあるんだろう。
あたしのその思考を読んだように、彼は「そうだね」と続けた。
「けれど、俺やロゥの傍に居る限りは許さない。‥大丈夫。何も心配はいらない」
静かだけれど、力強いその横顔から、少しの間目を逸らせなくなった。
「‥‥は、い」
声がかすれる。
彼は、後方を振り返るように一度ジアリーを一回転させると、そのまま町を出た。
その後をロゥさんたちの馬も続く。
‥ドキドキする。
護られて、
お姫様のように扱われて、
‥ドキドキ、してしまうよ。
いいの?
あたしを傍に置いて、
ずっと‥護って、くれるの?
‥‥アードさん‥。