漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
「リリーを聴かせてくれないか?」
ロゥさんとライラが出て行った部屋にアードさんと二人きり。
取り残された部屋でカチンコチンに固まっていたあたしに、アードさんが静かにそう言った。
「えっ?あ、はいッ!」
なんだ‥、
拍子抜け。
‥なんて。
こんなんじゃまるで、
期待してたみたいだな、あたし。
でも、
だって‥。
この訳の分からない世界に落とされて、あたしが頼れるのはこの人しかいないくて。
しかもこんな状況で、その相手は物凄く美形で優しくて‥。
あたしを、きっと信じられない額を払ってまで助けてくれた。
‥この状況で期待しない人の方がきっと少ないよ。
あたしはリリーを持って、窓際に腰を掛けた。
アードさんはベッドに腰を掛けてあたしを見てる。
‥なんか緊張するな。
けれど、
リリーを構えた瞬間。
そんな気持ちが一掃され、
滑るように歌が溢れる。
あたしが歌いだして、アードさんがハッと顔を上げた気がした。
リリーに身体を預け、
ゆっくりと目を閉じる。
弦を爪弾く度に変わってゆく部屋の空気。
こんなあたしの歌を、こんなに表現してくれる物があったなんて。