漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
「‥‥カリ‥‥‥アカリ」
静かになった部屋の中。
あたしを呼ぶアードさんの声。
それを聞くまで、
あたしは力尽きたようにただボゥッとしていた。
彼の声を聞いて我に返る。
「‥‥アードさん、あたし‥?」
「とても素晴らしい歌だった。
ありがとう。
‥‥‥だが、もう人前では歌うな」
「え‥?」
アードさんの珍しい強い口調に、戸惑った。
何故そんな事を言うのだろう?と疑問を抱いたけれど、
「いいね?」
そう優しく促されて、その甘い雰囲気に流された単純なあたしは、ただ素直に頷いた。
それを確認して、ベッドに移動したアードさんはあたしを手招きした。
ドキッと心臓が跳ねる。
「あっ、あの‥‥」
「何もしないよ」
アードさんがあたしの心を読んだみたいにそう言って、小さく笑った。
「ただ、
アカリには申し訳ないけど、
"キュリュス"に泊まらなければ
一晩買った事にはならないルールでね。
ここから出られるまで、俺が君を買う度泊まる事になるけど‥」
すまない、と
少し困ったような、そんな色っぽい微笑を向けないで欲しい。
「い、いいえッ。
‥‥ありがとうございます」
あたしはアードさんにそう言うのが精一杯で、部屋に一つしかないベッドに近づき、チョコンとすみっこに座る。
なんだ、
何にもしないのか‥。
何故か、そんなガッカリ感があたしを襲う。