漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
「あなたが‥‥
あの、歌声の‥?」
そう尋ねながら、あたしは少し首を傾げた。
哀しい。
寂しい。
恋しい。
――孤独感。
そんな感情が伝わってくるような、切ない歌声だった。
けれど、
目の前に立つその人物は、
自信に満ち満ちた、
‥どちらかと言えば傲慢そうな、
その場を凍らせてしまいそうな、
そんな雰囲気の男。
本当にあたし、
この人に喚ばれてきたの?
でも間違いなく、あの声はこの人なのだと分かった。
じゃあ、
そうなんだとしたら、
‥‥一体、
どうして?
「――アカリ、彼が前に言っていたその道に詳しい者だ。
俺とロゥは、隣国へ彼に会いに行っていた」
そうあたしに告げるアードさんは話を聞いていたのか、驚いた様子はない。
「隣の国にまで‥?」
なんでもない事のようにそう言ったアードさん。
けれど、
隣国と言ってもかなり遠いはずだ。
‥まさか、それで一週間も‥?
アードさんを見ると、少し疲れが残っているようにも見える。
あたしのために、男――‥ジェダっていう男性に会いに隣国にまで行ってくれてた‥?
「ありがとうございます、アードさん‥わざわざごめんなさい‥」
お礼を言いながらも、そこまでしてくれたアードさんを、さっき怒らせてしまった事に申し訳なさを感じる。
感じると共に、
『抱いてください』
だなんて、
いきなり非常識な事を言ってしまった事についてはどうしようなどと考えてしまう。
「気にしなくていい」
そう言ってくれるアードさんは、もうさっきの事はまるで忘れたような態度だ。
あたしもそう出来たらいいのに‥と思いつつ、今は考えるのをよそうと自分をたしなめた。