漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
少し俯いたあたしに構わず、アードさんが男の紹介をする。
「彼の名はジェダシュカ。
中立の立場で5ヶ国を見守る者。
かなりの高齢者だが、ナイアいちの魔法使いだ」
「‥‥――高齢者‥?」
ハテ?と
首をひねる。
アードさんを見てから、
男――‥ジェダシュカさんを見つめる。
細身ではあるけれど、魔法使いとは思えないような、バランスの良い身体つき。
黒いマントで身を包むような格好をしているのは、あたしの中での魔法使いのイメージどおりだった。
‥杖、はないみたい。
背筋は真っ直ぐだし、
‥‥どこが年寄り?
どこかノンキな気分で彼を観察したあたしは、ジェダシュカさんを始めに見た時から抱いてた疑問を口にした。
「とても年寄りには見えないし、
‥アードさん、ナイアには黒髪の人はいないって言ってませんでしたか?」
「あぁ。そう言ったが‥」
怪訝そうな顔をするアードさん。
ふ、と鼻の奥で笑ったような声がした。
振り返ると、目を細めて微かな笑みを見せているジェダシュカさんがいた。
「‥そうだったな。
"コル"がお前を選んだなら、
見破られるか」
「‥‥こる???」
「それに‥‥、
お前が来たのなら、
もう偽る必要もないな‥」
あたしの言葉は無視して、
そう言った彼は、
『――‥』
短く何かを呟く。
正確には、一言だけ。
その直後。
ジェダシュカさんの回りの空気が、
一変した。