蝶々、ひらり。
そんな俺達の関係が変わったのは、大学三年の夏だ。
夏の日差しが強い真昼間。
俺たちは日なたを避け、中庭の日陰になっている生け垣に腰を下ろしていた。
「坂上くん、彼女と別れたんだって」
彼女は元気のない様子でぽつりと呟く。
「マジ? 噂だろ?」
「噂。……でも本当かも知れない」
坂上と彼女のケンカ目撃情報なんかも飛び交っていた時期だったから、噂の信憑性は高いと思えた。
隣に座る有紀は、何故か俯いている。セミロングの髪の合間から見える表情も冴えない。
有紀にとってはチャンスなはずだがと思いつつも、どうせ告白なんてしないのだろうと、たかをくくってもいた。
だけどこの日彼女は言った。汗ばんだ手でお気に入りのスカートの裾を握り締めて。
「告白しようと思う」
「は?」
変な声が出て、途端に心臓が激しく鳴りだした。
高校二年からの四年ちょっとの片想い期間で、彼女の初めての一念発起。
まだ半信半疑の俺は、次にだす言葉を迷っていた。
「嘘だろ?」と茶化すか、「頑張れよ」と応援するか。
もう一つ選択肢はある。
有紀の片想い期間を上回る五年にわたる俺の気持ち。それを伝えるという行動。
今まであんなに尻込みしていたのに、彼女の決意が本気と分かった途端に衝動が増した。
今更、坂上なんかに有紀を奪われたくない。