やっぱり、無理。
持ってこられた企画書の内容の、せいか。
プライベートな空間にコイツがやってきた、せいか。
イライラがおさまんねぇ俺は、乱暴にソファーの上で足を組み替えた。
そんな俺にビクつく塩崎の態度さえ、イラつく。
「あ、あの・・・北島さんは、今日はっ・・・?」
「ああっ!?俺の女がいようといまいと、お前に関係あんのかっ!?」
コイツがまりあに絡むのも毎回、ムカつくし・・・だから、俺の口調が荒くなってこいつがビビるのも仕方がない事だ。
「い、いえー、北島さんがてっきりみえると思って・・・ケーキを買って来たんですが・・・うわっ・・・そんなに睨まないで下さいよー。先日打合せの時に・・・北島さんがうちの出版社で出しているタウン誌のケーキ特集に随分見いっていたので、話しかけたら、ここのケーキ屋に前から行きたかったんだけど中々時間がなくてっておっしゃってたんで・・・ちょっと、お土産に・・・。」
そう言って、塩崎が紙袋を差し出した。
知らなかった、まりあがそんなにケーキが好きだったなんて。
今まで一言も言わなかったじぇねぇか。
まあ、確かに俺は甘いもんが苦手で普段はくわねぇし、な・・・そおいや、カフェに入った時はたまにまりあ、ケーキ食ってたよな・・・女だもんな、甘いもんは好きだよな。
考えてみれば・・・あいつ、好きな食いもん、自分から食べに行きたいって言ったことねぇな・・・。
メシ食いに行く時も、俺が食いたいもん連れて行くだけだよな・・・。
確かに、俺、アイツに何食いに行くかなんて、聞く頭なかったよな・・・。
「・・・今、クリーニングを出しに行ってるだけだ。少ししたら戻る。」
俺がそう言うと、塩崎はホッとしたような顔をした。
塩崎は、チャラいが、こういうところが気に入っている。
こんな風に、到底俺が気にもしないような気遣いを、何でもない顔をしてさらりとやる。
決して恩着せがましくはない。
チャラチャラしているようで、仕事も丁寧で熱心だ。
ただ、まりあにチョイチョイくだらねぇ事言うのはムカつくが。
結局、いろんな雑誌社の編集担当と仕事をしてみて、コイツが一番やりやすいから。
高楼出版社との仕事を受けることが、多いんだろうが。
だけど、今回の企画はどうなんだよ。
そう思い、目の前の企画書の表紙に目をやり、ため息をつくと。
玄関のドアが開く音がした。