やっぱり、無理。
「あ、塩崎さんみえてたんですね?いらっしゃい。」
まりあがリビングに入ってきて、第一声がそれだった。
しかも、んなサービスいらねぇのに。
笑顔つき。
それがまた、可愛いから。
それだけで、イラついた。
塩崎がまりあの顔を見てホッとするのもムカつく。
「はい、おじゃましてます。あ、これ、お土産です。北島さんまだ召し上がってないって言ってましたよねー?」
塩崎は、今までビビってやがったくせに、まりあの顔を見た途端口調が砕けた。
「ええっ、この間のケーキですか?わぁっ、嬉しい!ちょっと開けていいですかっ!?」
そう言って、まりあが袋から出した箱を開けると、笑顔がマックスとなった。
チッ。
どうやら塩崎もケーキが好きらしく、早速ケーキを食べる事にしたらしい。
俺はケーキなんか、くわねぇけど。
「おい、コーヒー入れろ。」
さっきからコーヒーが飲みたかったのも、多分イラついていた原因のひとつだろう。
まりあは俺に頷くと。
「塩崎さんもコーヒーでいいですか?・・・あ、ホットがいいですか?アイスがいいですか?」
俺にはしない気遣いをしやがって、わざわざ塩崎のヤローにそんなことを聞いた。
醤油でもだしときゃぁ、いいのによ。
思わず、ムッとして。
「おい、俺はホットだぞっ!!」
と、声を荒げると。
6年も一緒にいて、そんな俺のあしらいに慣れているのか。
俺の剣幕にビビる塩崎とは違い、平然とした顔で俺のおでこに指を伸ばしてきた。
そして。
「ジロー、眉間にシワよってる。イラついてるときは、あつーい濃いめのブラックでしょう?」
なんて、俺の心を見透かしやがった。
ったく。
出会った15の頃は、まだ尻の青い処女で。
男と女の間の空気なんか読めねぇ、スキルのないガキだったくせによ。
いつのまにか、お前がいないだけで。
どうしようもなくイラつくぐれぇ、俺にとって必要な存在になりやがったんだ?