やっぱり、無理。
最終章~やっぱり、無理。
驚きで、頭が真っ白になっていた。
ただ、テレビ画面に映し出された、神妙な表情で記者会見で話す薫さんと。
画面の右上の、『藍崎薫に21歳の隠し子が!』のテロップの文字が。
どうしても、現実と思えなくて・・・。
さっきから、自分の腕をつねりどおしだ。
痛い、けれど・・・・でも、痛い、夢かもしれない・・・。
「おいっ、やめろっ!何してんだっ!?痣になるだろうがっ!?」
ジローにキツく腕を掴まれた。
って、その方が、痛い・・・・。
「って・・・やっぱり、夢じゃないんだっ!?」
そう言った私を、何故かジローがかわいそうな子を見るような目で見つめた・・・。
結局。
理事長と、和田君経由でジローがあの騒動を知り。
まず高楼出版社へ、一切の取引をやめることを通達した。
もちろん今回の企画も白紙に。
その上大学ばかりか系列の幼稚園、小学校、中学校、高校、専門学校の教材一切を高楼出版社から他社に変えるという内容で。
真っ青になった高楼出版社の社長と、担当の塩崎さんが慌てて飛んできた。
まあ、まだ話し合い中みたいだけれど。
あの片岡さんは、系列の印刷所へ出向で飛ばされたようだ。
でも、私が本当は薫さんの娘だとわかって、その処分も解雇に変わるかもしれないけれど。
東野さんは―――
あれ以来、大学に来ていない・・・
あの出来事を理事長から聞いて、慌てて謝罪にきた東野名誉教授の話では・・・そのまま留学になるかもしれない、と言っていた。
彼女に対して、同情とかそんな気持ちはないけれど。
あの、凄いパワーを、ちゃんとした方向で発揮できればいいのに・・・と、思う。
とにかくジロー以上に、今回は薫さんと礼ちゃんが激怒した。
そして、もう黙っていられない、と。
薫さんには認知した子供がいるという発表をしたのだった。
まあ私が生まれたのは結婚する10年前のことだから、酷いバッシングを受けることもないだろうけれど。
しかも、礼ちゃんは、各マスコミに向けてFAXを出しててくれたし。
公認で、私とはメル友でよくご飯も一緒に食べる仲だという、好意的な内容で。
で、今更なぜ公にしたのかという理由を聞かれ。
娘が大学で自分が父親であるという事を言えず酷い嫌がらせを受け、父親として我慢できなかった・・・と涙ながらに薫さんが答えて。
まあ、確かにそうなんだろうけれど。
いつもクールでフェロモンムンムンの薫さんが、娘を思い泣く姿を中年女性レポーターが涙ぐんで同情的な目を向けた事で・・・きっと主婦層も同情的になるんだろうと、予想できて複雑ながらも、安堵したのだった。
でも、ここで、アレ?と思ったのが、私、タミちゃんに認知されていたはず、ということだったのだけれど。
真相は―――
実は、タミちゃんは、民川松男じゃなくて。
在日の、外国人で。
日本で使う名前・・・通名を民川松男にしていたのだった。
本当は・・・民川松男は・・・薫さんの本名だった。
薫さんの方としても、タミちゃんが名乗ってくれるのは有難いことで、お願いしたそうだ。
若い頃、タミちゃんは悪い仲間に入っていて。
礼ちゃんもその仲間だった。
だけど、礼ちゃんが妊娠して。
もう馬鹿なことは止めて礼ちゃんと子供のために、真面目に働こうと思ったのだけれど。
仲間から簡単に抜けられなくて、もめているうちに・・・礼ちゃんのおなかの中の赤ちゃんが死産。
入院費がなくて・・・仕方がなく、例のAVに出て。
その後の事は・・・・もう、あえて聞かなかった。
どうやら、ママも・・・その、悪い仲間だったらしい。
タミちゃんとも、礼ちゃんともその頃からの友人で。
でも、苦しげなママの顔を見て・・・もう、詳しく聞かなかった。
今更、聞いてもそれは・・・仕方がない事。
だけど、今。
私は、とても、愛されている・・・。
もう、それだけで十分だった。
私が、どこの誰なのか・・・・それは、薫さんと、ママの子供なのだと。
そんな、当たり前なことに、今更気が付いた。