やっぱり、無理。



TVのLIVE中継の記者会見が終わり、しばらくすると。


薫さんから、電話がかかってきた。




「ま、りあ・・・今まで・・・ごめんな?」




第一声が、震えたその言葉だった。




「・・・っ、ほ、本当に、そうだよっ。」




湿っぽいのが嫌で、明るくそう言った。




「うん、でも・・・まりあ・・・俺の子にっ、生まれてきてくれてっ・・・ありがとなっ。」




だけど、そんなことを泣きながら言うから、私まで湿っぽくなって。




「・・・う、ん。」




と、返事をするのが精いっぱいだった。


泣きそうになる私を、ジローが後ろから抱きしめてくれて。


電話を持つ側の頬に、ジローの頬をくっつけてきて。





「薫さん、まりあ、泣かすなよっ。湿っぽいの俺、嫌いなんだよっ。もっと、いい話しろよっ。」




と、電話に割り込んできた。


ジローのその、いつもながらの強引ぶりに電話の向こうの薫さんが、クスクス笑うのが聞こえて。


私もなんだか可笑しくなった。




「ジロー、私、泣いてないし!・・・てゆうか、薫さん!私、何がびっくりって、藍崎薫が実は民川松男だったなんて・・・あははっ・・・薫さん、松男?イメージ違いすぎでウケるんだけど?」




そうだよなぁ、松男だもんなぁ・・・って、ジローもゲラゲラ笑った。


だけど、一瞬。


電話の向こうで、薫さんが黙り込んだ。


そして。




「まりあ・・・やっと、言える。まりあの、名前・・・実は意味があるんだ。」




静かな声で、私に語りかけた。


私も、ジローもその静かな声に、だまって耳を傾けた・・・。




「まりあ、心をこめてつけた名前だ・・・『松男と利栄の愛』で、『ま、り、あ』だ・・・誰にも分らなくても・・・まりあは俺と利栄の愛の結晶だから・・・・まりあ、って呼ぶとき、いつもその気持ちで、俺にはまりあがいるって、いつだって頑張れたっ・・・。」




湿っぽいのは、嫌だけど。


ジローもそう言っていたけれど。


そんな、ジローでさえ。


その真実の言葉を聞いて。



私と一緒に、泣いてくれた――




ま、り、あ・・・の意味をかみしめて。










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