秘め恋*story1~温泉宿で…~
「はぁ…気持ち良かったぁ。」
温泉から上がると、あの小さな庭園に行ってみた。
ホカホカでお肌もツルツル。
さすが、美肌の湯。
「わぁ、綺麗…。」
庭園の一角にある池の脇に咲いていた花。
白くてスラッとした咲き姿の…
「あれ?何だっけこの花…」
好きなのに名前が出てこない…
はぁ、脳が衰えてきたのかな…
「この花、カラーって言うんですよ。」
「あ!そうそう!カラー!」
あー、そうだ。カラーだよ。
スッキリー。
って、え?
つい、嬉しくて返答してしまったけど…
驚いて声のした後ろを振り返ると、
「驚かせてしまって申し訳ありません。
お姿が見えたので来てみたら、悩んでらしたので…」
「ううん。ありがとう。なかなか思い出せなくて、困ってたの。はぁー、スッキリ。」
“いえ、どういたしまして”と可愛い照れた顔で答えたのは、酒井くん。
やっぱり、可愛い。
「私、カラー好きなんだ。無垢で可愛い感じだけど、どこか凛としたかっこよさがあるって言うのかな…」
うまく言えないけど、強さを感じるこの花を私は好き。
「お客様に少し似てらっしゃいます。」
「え?私に?」
「あ、いえ。失礼しましたっ。あの、お夕食はお部屋までお持ちしますので、それまでごゆっくりどうぞ。」
思っても見なかったことを言われて聞き返すと、失礼なことを言ってしまったと思ったのか酒井くんは慌てて頭を下げて、仕事に戻ってしまった。
カラーが私に似てる?
どういう意味なんだろう?
酒井くんの言った言葉の意味がわからず、
しばらく私は考え込むようにしてしゃがんで咲き誇るカラーを眺めていた。