潮にのってきた彼女
「あたしが海だったら」


アクアが思いついたように言った。


「しょうごは空じゃない」

「すごい。同じこと考えてた」

「本当? すごいね」

「アクアが海なら」


思い切って言葉にする。


「俺は、風がいい。風霧だし」

「そうだね。風は、海のすぐ近くを吹いて、海を優しく撫でるね」


こんな考え、絶対アクアとでなければ浮かばなかった。

こんな感性があることに自分で驚いたぐらいだ。

浮かんだとしても、口になんか出せなかった。
なのにアクアはそういう不格好な言葉に、自然な色と大きな意味を付け加えて、返してくれた。

アクアの感受性は特別だ。


「海と風だね」


アクアが楽しそうに笑うから、少し勇気を出した。


「風」


亜麻色の上に、ぽんと片手を置いた。


「あ、海を撫でる」

「そうそう」


アクアは声を出して笑った。


「あれ?」


無造作に置かれた俺の左手に白い指で触れた時、アクアは何気なく、そう、本当に何の気なしに、そう言ったのだと思う。
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