シンデレラを捕まえて
「宮田くんが来てるんだね。彼にも出してあげてー」
ふらりと入ってきた安達さんが冷蔵庫を開けた。冷茶をコップに注ぎ、半分ほどを一息に飲んだ。
「本当は高梨さんに二個と思ってたんだけどね。まあ、ちょうどよかったかな」
「えー、そうだったんですか。ありがとうございます」
お皿にカップとスプーンを並べる。安達さんは残りを飲みながら続けた。
「宮田くんと付き合ってるって感じでもないんだね」
「え?」
「この間会ったときはこう、いい雰囲気だったけど、進展ないのかなって思って」
驚いて安達さんに顔を向けた。
「え、ええと?」
「進展ないのなら、俺も遠慮する必要ないのかなあ?」
コップから私に視線を流した安達さんの顔からは、いつもの柔和な表情が掻き消えていた。
「安達、さん?」
「や、高梨さんっていいなと思ってるんだ。だから、先約もないようなら俺のことを考えてもらおうかなあ、ってね」
狭いキッチンで、触れあうほどの距離で、固まった。
だってまさか、安達さんからそんなこと言われるなんて想像だにしてなかった。これって冗談とか、そういう類のものじゃないよね。
一ヶ月ほどの付き合いだけど、安達さんの口からそんな冗談が出るはずがないことくらいは分かってきている。
「焦るつもりはないんだ。立候補だけ、しとくね」
お皿とスプーンを手に、安達さんはキッチンを出て行った。
……やっぱり、嘘とかそういうものじゃ、ないのか。
呆然としていた私だったが、キッチンでいつまでも突っ立っているわけにもいかないので、トレイを抱えてのろのろと事務所へ戻った。
みんなのデスクにお菓子を置き、応接スペースへと向かう。
「失礼します。安達さんのお土産のお菓子です」
「聞こえた聞こえた。お洒落そうな名前だったねえ」
大の甘いモノ好きな社長が嬉しそうにお皿を置くスペースを作ってくれた。
「美羽ちゃんの好きなお菓子なのかな?」
「あ、はい。そうなんです」
「安達くんも、なかなかやるねえ」
ご相伴に与りますか、と社長がスプーンを片手にして言った。
「ほら、穂波も食べなさい」
「あ。あの、どうぞ」
穂波くんの前にもお皿を置く。彼は不機嫌そうに私に視線を投げた。
「あ、の?」
「なんでもない」
お皿を脇に押しやって、穂波くんは書類を取り上げた。険しい横顔が見えた。
「穂波、食わないの?」
「うん。昼、食いすぎたし」
もったいない、と社長が穂波くんの分のお皿を自分の方へ引き寄せた。
「美羽さん、もういいよ。ありがと」
こちらの方をちらりとも見ないまま、穂波くんは言った。
「あ、はい」
空になったトレイを抱えて応接スペースを出る。私の斜め前のデスクに座っていた安達さんがくすりと笑った気がした。
ふらりと入ってきた安達さんが冷蔵庫を開けた。冷茶をコップに注ぎ、半分ほどを一息に飲んだ。
「本当は高梨さんに二個と思ってたんだけどね。まあ、ちょうどよかったかな」
「えー、そうだったんですか。ありがとうございます」
お皿にカップとスプーンを並べる。安達さんは残りを飲みながら続けた。
「宮田くんと付き合ってるって感じでもないんだね」
「え?」
「この間会ったときはこう、いい雰囲気だったけど、進展ないのかなって思って」
驚いて安達さんに顔を向けた。
「え、ええと?」
「進展ないのなら、俺も遠慮する必要ないのかなあ?」
コップから私に視線を流した安達さんの顔からは、いつもの柔和な表情が掻き消えていた。
「安達、さん?」
「や、高梨さんっていいなと思ってるんだ。だから、先約もないようなら俺のことを考えてもらおうかなあ、ってね」
狭いキッチンで、触れあうほどの距離で、固まった。
だってまさか、安達さんからそんなこと言われるなんて想像だにしてなかった。これって冗談とか、そういう類のものじゃないよね。
一ヶ月ほどの付き合いだけど、安達さんの口からそんな冗談が出るはずがないことくらいは分かってきている。
「焦るつもりはないんだ。立候補だけ、しとくね」
お皿とスプーンを手に、安達さんはキッチンを出て行った。
……やっぱり、嘘とかそういうものじゃ、ないのか。
呆然としていた私だったが、キッチンでいつまでも突っ立っているわけにもいかないので、トレイを抱えてのろのろと事務所へ戻った。
みんなのデスクにお菓子を置き、応接スペースへと向かう。
「失礼します。安達さんのお土産のお菓子です」
「聞こえた聞こえた。お洒落そうな名前だったねえ」
大の甘いモノ好きな社長が嬉しそうにお皿を置くスペースを作ってくれた。
「美羽ちゃんの好きなお菓子なのかな?」
「あ、はい。そうなんです」
「安達くんも、なかなかやるねえ」
ご相伴に与りますか、と社長がスプーンを片手にして言った。
「ほら、穂波も食べなさい」
「あ。あの、どうぞ」
穂波くんの前にもお皿を置く。彼は不機嫌そうに私に視線を投げた。
「あ、の?」
「なんでもない」
お皿を脇に押しやって、穂波くんは書類を取り上げた。険しい横顔が見えた。
「穂波、食わないの?」
「うん。昼、食いすぎたし」
もったいない、と社長が穂波くんの分のお皿を自分の方へ引き寄せた。
「美羽さん、もういいよ。ありがと」
こちらの方をちらりとも見ないまま、穂波くんは言った。
「あ、はい」
空になったトレイを抱えて応接スペースを出る。私の斜め前のデスクに座っていた安達さんがくすりと笑った気がした。