シンデレラを捕まえて
「む……、ん……」


熱っぽい、ぬるりとした舌を受け入れる。裾から大きな手が入り込んできて、わき腹をそっと撫で挙げた。


「ん……っ、ほ、穂波くん、ちょっと、待っ……」


Tシャツを捲り上げられかけたのを、慌てて止める。


「あ、汗かいてるから! だから、その!」


今日も暑い一日だった。なるべく日陰にいたとはいえ、汗をいっぱいかいた。穂波くんが触れているその場所だって、今も汗でべたついているのだ。


「お、お風呂とか! その!」

「やだ」

「やだ、じゃなくって! 私は無理なの!」

「俺も無理。ここで我慢はできない」


力任せにシャツを捲られる。お腹から胸元までが外気にさらされた。
汗の匂いのするはずのわき腹、おへそに唇が触れる。時折ぺろりと舐められて背中がしなる。


「穂波、く……っ」


唇はそのまま上へと向かい、ブラの上に落ちる。甘い痺れが全身に走って、僅かに抵抗していた私の体から力が抜けた。


「ん。美羽さん、いいこ」


 背中にぐいと手が回り込み、ホックを取ってしまう。するりと奪われた下着はベッドの下に落ちた。


「も……待って……」


穂波くんは、私の躰の事をもうすっかり知ってしまっているのだろうか。指が、舌が、唇が、私の望むところばかりに触れてくる。穂波くんの前では、私は何も隠すことなんてできない。

私も、知りたい。この人のことを、もっと、いっぱい。

目の前にある逞しい躰に手を這わせ、唇を寄せる。引き締まった腹筋の波を撫で、腰、背中に回って、背骨を辿る。
左の鎖骨の下に、小さな黒子が二つお行儀よく並んでいる。それを一つ一つ舌で舐め、口づけた。


「美羽さん、すき」


繰り返し、耳元で囁かれる声が愛おしい、嬉しくて、胸の奥から感情が溢れてくる。


「私も。すき」


穂波くんに包まれ、満たされて。この心地よさを、私も彼に与えてあげられていたらいいと思う。 何度も何度も、言葉を、想いを重ねて。


「お腹すいたね」

そう言って顔を見合わせて笑い合ったときには、月は空高くに上っていた。



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