シンデレラを捕まえて
午前中に大まかな事務処理を済ませ、午後から時間を頂いて病院まで行くことにした。


「すみません、ちょっと出てきますね」

「病院、自宅の近くだっけ? 気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」


玉名さんに見送られて会社を出た。その足で、私は駅に向かい、電車に乗った。自宅から徒歩十分の位置にある病院までは電車で向かうしかないのだ。
数日しか離れていなかったのに、やけに懐かしい駅舎を出て、病院に向かう。少し混んでいたので待たされたけれど、無事に抜糸を済ませることができた。
傷痕は気にしていたよりも小さくて、さほど目立たなかった。この具合だと、きれいに治ってしまいそうだ。

『抜糸済みました。快適!』

穂波くんにメールを送り、会社にもこれから帰宅すると言う旨の連絡を入れた。


「ふう、暑い……」


携帯をバッグに押し込んで、空を仰いだ。
相変わらずの、暴力的なまでの暑さだ。一番日差しが強い時間帯だとはいえ、辟易してしまう。肌がじっとりと汗ばんでしまった。蒸れてしまう包帯がとれて、ほんとによかった。


「あ、そうだ。お土産買って帰ろう」


駅の近くに、美味しい和菓子屋さんがあるのだ。
私のお気に入りの、紫芋餡がたっぷり入った葛饅頭を買って帰ろう。冷たくてつるりとした葛と、素朴な甘さの芋餡が絶妙なのだ。濃いめに淹れた冷茶と一緒に食べたい!

会社の分と、穂波くんの分も買って。あ、大塚さんの分もいるよね。私は、二個買っちゃおう。会社で食べる分と、穂波くんと一緒に食べる分。
買って帰る個数を指折り数えながら歩く。


「美羽」


あの曲がり角を曲がれば店が見える、といった時。ふいに、声がかかった。え? と声のした方へ顔を向ける。
そこには、夕方から約束をしていた比呂が立っていた。


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