シンデレラを捕まえて
「約束の時間になったら、俺、店の近くで待ってるから」

「うん」

「何かあったら連絡して。すぐ行くから」

「うん、わかった。でも、もうこれ四回目の確認だし、大丈夫だってば」


行きの車内。比呂と会う約束をしている私に、穂波くんは注意を繰り返した。


「大丈夫って保証はどこにもないんだから。気を付けてね」


ふう、と大きなため息をついた穂波くんは、ちろりと私に視線を流した。


「美羽さんは、危ういからなあ」

「え? どういうこと?」

「男の心を擽るんだ、美羽さんは。一歩踏み込みたくさせる。安達さんだって、セシルさんだって、そうだもん」

「ええ!? それは考え過ぎだよ」


驚いて声がひっくり返った。
そんなことした覚えもないし、出来る気もしない。
しかし穂波くんは、「考え過ぎならいいんだけどねえ」ともう一度ため息をついた。


「だ、だって、セシルさんは面倒見がいい人だから、だから私のことを気にかけてくれたんだよ。それだけだよ。
安達さんだって……」

「安達さんは分かりやすいくらい美羽さん狙ってるじゃん」

「あ、う……」


それに関しては、否定できない。直に言われたわけだし。言葉に詰まると、穂波くんは苦笑して私の頭に手を伸ばした。ポンポンと撫でてくれる。


「今は余裕出来たから、安達さんたちについてはとやかく言うつもりはないんだよ? 奪われないように俺が努力すればいいだけだし。
だけど、栗原さんは別。美羽さんのことよく知ってる人だから、どうやれば美羽さんが揺らぐかくらい、分かってるはずでしょ」

「ゆ、揺らいだりしないもん」

「うん。美羽さんのことは信じてるよ? だけど、栗原さんは信じられない」

「……ん」


穂波くんの心配はよく分かる。私だって、不安が全くないと言えば嘘になる。
だけど、穂波くんが傍にいてくれると思えば、大丈夫だとも、思えるのだ。


「心配しないで。そうだ、今日はどこかで夕飯食べて帰ろう? 私の抜糸記念」

「あれ? 今日が抜糸なの?」

「うん。お昼に少し会社抜けて、病院に行って来るね」


ようやく、煩わしい包帯生活から抜け出せる。お風呂、不便だったもんなあ。


「そっか、よかった。傷は残らない、んだよね?」

「多分ね。しばらくは赤く残っちゃうみたいだけど」


話している間に、車はいつものコインパーキングについた。


「じゃあ、また夕方ね」

「うん。気を付けて帰ってね」


帰って行く車を見送って、出社した。


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