MOONLIGHT



「将は…甘えてもくれるけど…私を甘やかせてくれるの。こんなの初めてで。ちょっと居心地が悪い、けど…居心地がいい。」


途中で恥ずかしくなって、言っていることが支離滅裂になってしまった。

ぶっ、とオサムが吹き出した。


「レアだなー。レイのそんな顔…。まあ、でも幸せそうでよかった。俺、本当にレイには悪いことしたと思ってるから。」

「もう…いいよ。お金だって十分貰ったし。」


そう。

弁護士を通しての手続きがあったらしく、事件にはせず私の通帳に3千5百万円の入金があった。

森村さんは当然の報酬と慰謝料です、といって
いたけど。

でも、全てを早く終わらせたくてそのまま受け取ったのだった。


「・・・金で済むことじゃないと思ってる。レイを傷つけた…。」

「もう、やめよう!私、結局は医者として経験を積ませてもらったのも事実なんだよ?オサムの事は別として、オサムの病院で経験したことは私の財産になってるから…悪いことばっかりじゃなかったんだし。」


正直な気持ちを言ったのに、オサムは苦笑いをした。


「・・・っとに。相変わらずポジティブだな。たかが俺のためにスゲー研究を棒に振ったのに…。」


ああ、そのことが気がかりなんだ。


「たかが、なんて言わないでよ。2年前のあの時私の一番大切なものは、オサムだったんだよ?」

「……。」


オサムの顔がクシャリと歪む。


「だから、後悔なんてしてないよ。」


これは、胸をはっていえる。


「はあ。俺は何を見てたんだろう…バカだよな…。」


オサムの少しいじけた顔…昔は、この顔が可愛くて、なんでも言うことを聞いてしまった。

それが、いけなかったのかもしれない。


「バカは私も同じだよ。」


そう言うと、オサムは私を真剣な目で見つめた。


「さっき、喫茶店の前をとおって、ガラス越しにレイを見つけた時、今更会わせる顔なんてないけど。最後に、これだけは伝えたいと思った。だから、声をかけたんだ。みっともない、って思ったけど。」

「え?」

「ありがとう…と、スゲー研究…やり直せるなら、やり直してほしい。」

「……。」


驚いた。


オサムの口からこんな言葉が出るなんて。

みっともない事なんて、今まで避けてきた人が。

……私のためか。





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