MOONLIGHT
「……よく考えてみる。私の方こそ、ありがとう。」
少し、ジン…としてしまった。
いや、かなり。
だけど、そんな時間も長くは続かず。
私の携帯が鳴りだした。
「迎えが来たから。」
そう言うと、オサムが伝票と掴んで立ちあがった。
その顔はほほ笑んでいる。
私は堪らなくなって、手帳を破り、殴り書きでメモを渡した。
「これ、私の大学の同級生。札幌で実家の病院継いでいるの。オサムのとこくらいの規模の病院。夜勤のバイトとかできると思う。大学病院だけじゃ大変でしょ?それに、いい経験もできる。連絡しておくから。」
「レイ…。」
「子供生まれるんでしょ?プライドなんか捨てな。それに、経験は財産になる。今までの分を取り戻すなら、そこで働くのもアリだよ。」
オサムの顔が歪む。
「レイの言った通り、うちの病院は居抜きで貸すことが決まった。お袋…家族は、こっちに残していくんだ…レイ、ありがとう。最後に…素直にあまえさせてもらう。」
昔のオサムならこんな言い方できなかった。
オサムも成長したんだ。
「何言ってんの。最後じゃないよ。同じ道にいるの。また、どこかで会うよ。その時は、笑顔で頑張ってるって胸をはって会えるようにしよう。」
最後は、私も声が震えた。
オサムは、何も言わず。
何度も何度も小さく頷いた。
喫茶店の前で、オサムと別れて。
少し歩くと、背の高いものすごく不機嫌なキャップにサングラスの男が目の前に立った。
「俺、浮気は許さないし。元彼と会うのも、ものすごく嫌だし。俺の電話にレイが全然でないっていうのも、たまらないんだけど。」
要するに、今オサムと会っていたのを見て、やきもちをやいて拗ねてるってことか。
ぶ。
可愛い。
もう、なんでそんなに可愛いかな。
私のツボ、思いっきりハマってるんだけど。
私は笑顔で、将に抱きついた。
「将、ものすっごく、会いたかった。」
「な、何だよっ。弁解くらいしろよっ。」
そう言いながらも、将の顔がゆるんでる。
「弁解するようなことってないし。オサムと会ったのは偶然。話をして、凄くすっきりした。オサム、北海道の病院で働くんだって。今から向かうって言ってた。」
将が離してくれないから、そのままの格好で話した。
「そっか…。」
将が、安堵のため息をついた。