MOONLIGHT



23日、仕事が片付き、そろそろ帰ろうと思っていたところ。


「城田先生、今日は飲みに行きませんか?」


最近、仲間を伴ってよく研究室に訪れ、雑用をかって出てくれる伴くんがいつものメンバーとやってきた。

そういえば、今度飲みにいこうって言ってたな。


「いいわよ。いい店ある?」

「やった!いつも俺達が行く居酒屋でもいいですか?」


2年の友田君が、遠慮がちにきいてきた。

彼はコンピューターに長けている。

結構仕事の下準備を最近手伝ってくれるので助かっている。


「タバコが自由に吸えるなら、OKだけど?」

「そこ禁煙じゃないから、大丈夫です!」


伴君の彼女で、3年の国井さんが元気に答えた。

彼女は刺繍がプロ並みに上手い。

つまり手先が器用で、何かと重宝だ。


「よし。じゃあ、今日は私の奢りで飲みに行こう。」


皆が歓声をあげた。

皆には、私がT大と掛け持ちで忙しくなってから、色々手伝ってもらい本当に助かっている。

まあ、新年度から始める私のゼミのメンバーとなる予定なんだけど。


最初は、伴君の奇異な行動にかなりビックリしたけど、中々私に話づらくて声がかけれず、病院の中から追いかけてやっと意を決して声をかけられたのがあの駐車場だったらしい。

紛らわしいやつだ。

まあ、それだけ熱心なんだけど。


「先生、そこの店って、ジャコ入りだし巻きがスゲー旨いんですよー。」


英語、ドイツ語、フランス語が堪能な2年の湯浅君。

彼は、教材として使う論文を訳してもらうのに、とても役立つ。


この4人が私の研究室に熱心に通ってくれている。

本当に助けられていると思う。


今までの私なら、研究室にこんなに学生を迎え入れるなんてことはしなかった。

いつだって、自分の研究で一杯一杯で。

教える、という事がこんなに楽しいとも思わなかった。


ここに来てから、私は変わった。

いや、あの横須賀から変わったんだ。

将と出会って。






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