MOONLIGHT
確かにジャコ入りだし巻きは旨かった。
「だけど、先生、5人なのに生ビールピッチャー2つって頼みすぎじゃないですか?」
湯浅君が驚いて私を見る。
「大丈夫よ、ひとつは私が担当するから。あとお酌しなくていいから。私は自分で好きに飲みたいの。だからあなたたちも好きなもの頼んで、好きにのんで?どうせだから気なんて遣わないで、旨い酒呑もうよ。」
私がそう言うと、伴君がゲラゲラ笑った。
「ホント、城田先生って、初めの印象と全然ちがいますよね。俺のビビりは何だったんだろう。」
「そうよね、みっちゃん、城田先生の論文を読んで奮起したくせに、本人目の前にしたら、全くはなせなかったもんねー。」
国井さんが伴君をつついた。
ちなみに伴君は充という。
「だってT大首席の才女の上、容姿だってこんなに完璧で、授業だってクールに淡々と進めるし・・・俺の質問なんて鼻も引っかけられなかったらどうしようって…。」
げ、そんなふうに見られてたのか。
「ちょっと、ショックだ。」
「あー、でも少しそう言う風にみえるかも。」
と、国井君。
「ええっ!?」
「それが、こんなのんべぇで、親しみやすい先生だったなんて、詐欺だよな…。」
湯浅君が私の既に3分の1以下になったピッチャーのビールを見ながら、ため息をついた。
何だよ。
ちょっとムカついたから、今日はやっぱり割り勘か?と言い出したら、皆が謝りだした。
ふん。
わかれば、よい。
少し気分が良くなって、タバコに火を着けた。
ここは、小綺麗な居酒屋で、個室だ。
だから、リラックスして飲める。
「でも、城田先生と瀬野将さんがもうすぐ結婚なんて、信じられませーん。」
国井さんが、手帳から将のプロマイドをとりだしうっとりとした。
「え、もしかして、国井さんは将のファン?」
にしては、現実の彼氏とのギャップが激しくないか?
国井さん、結構可愛いのに。
「先生、まさか俺と瀬野さんを比較してませんよね?」
ギクッ。
私の様子に伴君以外が爆笑した。
「はい。私実は、物凄いファンです。ドラマも映画も全部見てます。実は、昨日『ムーンライト』見てきました。」
何か、国井さん、顔つきが変わったぞ。
「へえ。すごいな、私なんか、1つも見たことない。てゆうか、結婚するって決めるまで俳優って知らなかったし。」
「「「「ええっ!?」」」」
いや、みんなそんなに驚かなくても。
「じゃあ、な、何だと思ってたんですかっ、瀬野さんのこと!?」
「…最初、ホストと思ってて……その次はヤクザ…。いや、家で電話してて、抗争がとか指をつめるとか、話してるし…今考えればドラマの話だったんだけど。」
そう言うと、皆驚愕の顔だった。
「でも、先生、瀬野さんがヤクザでも結婚しようって思ったんですか?」
「そうだよ。」
当たり前の事を答えたつもりだったけど、国井さんがため息をついた。
「何か、瀬野さんが先生を選んだのがわかった気がする。」
国井さんがうんうん、と1人頷いた。
そんな時、私の携帯がなった。