MOONLIGHT
夫人は助かった。
処置をした医師によると、後遺症もないそうだ。
もともと狭心症の気があったようで、人を刺す場面を目の当たりにしたという物凄いショックが、心臓の負担になったらしい。
フランス人の夫が夫人のもとに来たので、水沢リカの様子を見てくると、湯浅君を通訳に付けた。
水沢さんも大事には至らなかった。
部屋を訪れると、水沢さんはしっかりと意識があった。
「痛む?」
誰もいない病室の隅にあるパイプ椅子を持ってきて、ベッドのそばに座った。
「いえ、痛み止めが利いているみたいで、大丈夫です…それより、色々我儘を言ってすみませんでした。嫌な気持になったと思うんですけど、助けて頂いて…。」
水沢さんが横を向いた。
「いいのよ。それに医者だもの、命を助けるのは当然のことよ。だけど、あんまり我儘いうと、世の中通らなくなるわよ?仮にもプロでしょ?」
「はい。今日の城田さんをみていたら、そう思いました。」
「え?私?」
「ええ。人を助けるのは好き嫌いの感情に流されないで、最善をつくしていました。私、なんとなく瀬野さんが城田さんを選んだ理由がわかりました。」
「ソウデショウカ…。」
照れくさくて俯く。
クスリと笑う水沢さん。
「実は社長の荏原は、私の父なんです。母と離婚しましたから、名字が違いますし、親子関係を隠していますから。」
「そう。」
「宮田さんは…あ、私を刺した人ですけど…父の恋人で…多分私を浮気相手と勘違いしたんだと思います。このところ、フランスと日本合作の映画の企画が持ち上がっていて、私を売り込むのに父が必死でしたから…。」
「そっか…」
「『ムーンライト』の関係者の皆さんに、凄く迷惑をかけちゃいました。マスコミが今日沢山ん来ていたから、大変な騒ぎになっていると思います。お父さんも警察いったりとかで、大変だろうし…。」
狭心症のことは黙っておいたほうがいいな。
そんなことを考えていたら、ノックの音がした。
「レイさん、取りあえず、グランドヒロセ銀座に部屋をとったからそこに行くように、将さんから連絡があった。マスコミが大変なことになってるって。あ、この部屋は、特別室で関係者以外は入ってこないから、君は心配しないでもいい。事務所の人も間もなく来るそうだ。レイさんもいつまでもそんな恰好してたら、まずいだろう?」