MOONLIGHT
家庭環境のせいか、私は、小さい頃から、人に甘えるのが下手だった。
いつも冷静でいようとした。
自分でも、可愛くない女だと思った。
でも、オサムはいつも笑っていて、屈託がなくて。
甘え上手だった。
私が、どうしてもできない甘える、ということを意図も簡単にやってのけた。
こんな風に、屈託なく笑いたい、初対面に彼の笑顔を見て、そう思った。
それが、好きになったきっかけだった。
聞けば、同じ医学生。
オサムの大学は私立で大学は違ったけれど。
ちょくちょく話すようになっていた。
それから、1年後。
「城田さんって、待ち時間はいつも勉強してるよね?」
ある日、とある商店街の売り出しイベントに来ていた時に、話しかけられた。
出番まで、30分あるので、待合室の隅で、医学書を広げていた。
顔を上げると、彼。
紙コップのコーヒーを差し出していた。
「ありがとう。院生だし、それに奨学金ももらってるから手を抜けないの。」
ドキドキする気持ちを抑え、サラリ、とそう言ってコーヒーを受け取った。
「え?T大学でしょ?国立で学費安いのに奨学金?なんで?」
普通はそう思うよね。
「あー、うち両親いないから。学費と生活費自分で調達しないといけないから。」
普通はこう言えば、ごめん、とか言って引くんだけどね。
普通は。
でも、オサムは違った。
「え、いないってどういうこと?亡くなったの?いつ?」
矢継ぎ早つぎの質問。
しかも、ナーバスな内容だよね、これ。
「…中川君。こういう話は普通、遠慮しない?」
ため息をつきながら彼を見つめた。
すると、彼は少し口を尖らせて。
「俺、城田さんの普通でいたくないし。特別になりたいから、聞いてるの。」
「え?」
「だからっ、好きだから、知りたいって言ってるのっ。他の人にはこんな、悲しい話、つっこんで聞かないよ。」
「ぇ…。」
私は、頭の中がパニックになって、気がつくと、医学書にコーヒーをぶちまけていた。
あー、っていいながら、オサムが近くのタオルで医学書を拭いてくれた。
「ホント、普段は冷静な顔して、時々こういうドジするところが、可愛いんだよね。ねえ、彼女になってよ・・・レイって呼んでいい?」
「可愛い」という言葉と、彼からの告白は、今までの人生で1番嬉しい出来事だった。