大罪
「まぁいい。」
そう言いながら、黒い宝石を見せる。
ベルゼブブと戦った時に見たよりもずっと大きい。
“——、愛オシイ、我ガ子”
藍畑はタナトスにその宝石を近付ける。
「見せないなら、暴くまで。」
宝石は光を放ち、消えた。
“ドクン、”
自身の鼓動を感じる。
ぬるりと手が後ろから、頬をなでた。
“——イル、————我ガ、子——”
「な、なによ。」
後ろを見ると、黒髪の女が笑っていた。
“愛シテイル、愛オシイ我ガ子。”
そう言うと、消えた。
目の前の藍畑には見えていないようだ。
消えた後に死体が目に入った。
「あれは……」
黒い髪の女の死体だ。
其方に手を伸ばそうとするも、杭で打ち付けられていて出来ない。
「あれは、魔女と噂された女性だよ。ひとりで国を滅ぼした殺戮者だ。」
「よく、捕まえられたわね。」
「苦労したさ。だが、身篭っていたから、戦えなかったようだね。姿はくらましていたけれど我々の目は欺けない。」
「……身篭って、」
そう呟いて見ると、女性が笑った気がした。
「!」
目を見開いて、瞬きをする。
“愛している。愛おしい我が子。”
「——あれ、は……」
“愛している。”
「あれ、は……」
涙が伝う。
理解した。
このひとは……
「おかあ、さ、ん……」
その時、眩しい光が包んだ。

全てが灰になる。

ぽつんと自分とその死体が居た。

死体はゆっくり起き上がり、わらう。

「ヤァ。」
ケタケタと笑う姿は悪魔のものへと変わった。
「……ふ。そう。私は、貴方から生まれたの。」
「生マレテイナイ。」
「私を孕んで死んだのね。」
「ソウダ。」
「答えをくれるなんて珍しい。」
灰となり、廃墟のような周囲を見る。
「これは、現実かしら。」
今まで自分を縛り付けていた杭も灰になり、消えている。
「ヤット、オナジニナレタ。私トオマエ。」
「貴方の力の一部を手に入れたから、か。」
胸に手を当て目を閉じる。
「サァ、共ニ行コウ。」
「何処へ?」
伸ばされた手に触れると、悪魔が嗤う。
その時、天が割れた。
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