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しばらくすると、アパートが見えてきたから、「あのアパートだよ」と指をさした。

見慣れた、色褪せた古いアパート。

カンカンと鉄の階段を登って、二階へあがる。

家の扉の前に立ったら、急に不安が込み上げてきて、もう一度和馬を見上げた。

「大丈夫だから。開けて」

「……うん」

ガチャッと鍵を開けた。

扉を開けると煙草の匂いがした。

一日離れていただけで、こんなに煙草の臭いが気になるとは思わなかった。

でも、浩介がいつも履いている靴がない。

「いない、みたい」

「そう」

家の中に入っても、浩介はいなかった。

日曜日なら家にいると思っていたのに。

意外だった。

どこに行ったんだろう。
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