形なき愛を血と称して

「は、早くしてくだーーなさいっ」

花には似つかわしくない顔をしていた。

目元が歪んでいる。酷く、苦しそうに。

「お願いです、からっ。このままじゃ、私ーーあ、その……教えなさい!」

酷く、泣きそうな顔をしていた。

リヒルトの首にかかる手には、最初から力が入っていない。この吸血鬼が何をしたいのか計りかねる。

強気な言葉でありながら、震えている体。
こちらがつつけば、一気に崩れ落ちそうな女はーー

「ガウッ!」

「きゃあっ!」

ラズの一吠えで、部屋の隅に縮こまった。

牙を剥くなとの命令を守りながらも、主人を守ろうとするラズは、吸血鬼を更に追い詰める。


けたたましい鳴き声は、吸血鬼の言葉をかき消さんばかりだった。

「……」

その様子を傍観し、涙目の吸血鬼と目が合った。

助けてと訴えかけられているのは分かるが、先ほどしたことを考えれば、このままラズに食い殺されてもいいだろう。

腰を上げ、手をかけられた首をさする。

「何が、したかったんだ」

冷徹な声が出されるなり、犬の鳴き声は止む。

それでも震える吸血鬼は、自身の先を見据えてしまったからだろう。

「やっ、ごめ、ごめんなさいっ」

失せた強気ーー張りぼてがなくなれば、そこいらの女と大差ない。それでも、容赦ない氷の瞳は質問に答えろと促すだけ。

「と、当主に、薬の作り方、聞けば……いいって。何としてでも、聞けって、ごめんなさいごめんなさいっ」

たどたどしい言葉でも、大方予想通り。
あちらもカウヘンヘルム家を見限ったのであろう。

最後に薬の精製方法を聞き出そうとした訳だが、その大役にこんな女を寄越すのだ。

「捨てられたな、お前」

肩を跳ねさせる吸血鬼。思い当たる節があるのか、顔を伏せ、嗚咽を漏らす。

そんな吸血鬼を観察しながら、もう一つ聞きたいことが出来上がった。

< 20 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop