形なき愛を血と称して
「お前、本当に吸血鬼か?」
吸血鬼の容姿とは、人間と大差ない。
カラス羽のような黒翼を背より生やしているが、人間社会(餌場)に紛れ込むため体内に収納出来る。
もっとも、餌場ではないこの場で翼を隠す吸血鬼などいないがーー隠さない翼が異様であった。
背ではなく腰より生えるは、蝙蝠の羽。
枯れ枝のような骨格に、破れた皮膜。張りぼてにも近しい羽は、吸血鬼の羽毛に覆われたそれとは別物。
さらには、頭に対なす白の破片。
折れた角だとは、目を細めてようやっと認識出来た。
吸血鬼ではない何か。その何かは、俯きながら肩を震わせている。
「吸血鬼、です。これ、でも……」
見た目の違いを自覚しても、そうだと言い切るーー言い聞かせるように言う女。
ラズへの恐怖で体を縮こませ、怯えていたようだったが、目的は忘れていないらしく、唾を呑み込み、顔を上げた。
「薬の精製方法……」
「教えるわけないだろう」
「な、何でもしますからっ」
「なに?色仕掛け?」
赤面する女。リヒルトがそうも言ったのは、女の体がやけに扇情的なものだったからだ。
人外だからこそ、人間では有り得ない艶やかさ。理性のたがが外れる見目に、今し方、男に乱暴でもされたかのような破れた衣服。大丈夫かと声をかける前に、組み伏せたくなる女だ。
「人間が吸血鬼を抱くわけないだろうに」
女の正体を知っているからこそ、リヒルトは平常でいられた。
女の目線に合わすように膝を折る。
ひっ、と悲鳴を出されたが、構わず顎を掴んだ。
「口、開けて」
女の頬を指の万力にかける。
痛みで問答無用に開いた口腔。
「だらしない顔だねぇ」
「っっ!」
侮辱に対して涙目になる女から、最初の押し倒しは、自棄かと察する。
今ので力量が分かったも同然だ。
脅威にも値しない。