形なき愛を血と称して
「でも、気持ち悪いとは思わないよ」
歯車に小さな亀裂が入ったかのような。
言った直後に、何を言っているんだと思考停止する。
質問されたから答えたにせよ、ここで返すことではない。
第一、人間の自分が、化け物を気持ち悪くないと称することがおかしい。
ここに来た吸血鬼ーーその吸血鬼の牙を抜く家族も、自分さえも、気持ち悪いと嫌悪していたのに。
「本当、ですか」
どうして、振り向いてしまったのか。
あどけない瞳が自身を見上げている。
そんなことを言われたのは初めてだと言わんばかりに、呆けてもいるようだった。
泣き腫れた目元、少しでもつつけば、また腫らすこととなろう。
涙を流させることは得意だ。けれども、その逆は知らない。
ーー泣かせることしか、教えられていない。“教えてはくれなかったんだ”。
「ああ。気持ち悪くない」
なのに、出来た。
ようやっと、花に似つかわしい顔を見ることが出来た。
たった一言で。こんな言葉で。
泣かせること以外のことが、出来たんだ。