形なき愛を血と称して

吸血鬼でありながら、違う見目。

醜いアヒルの子のように成長したところで、女の仲間だと名乗る同族は現れない。


この女は混血だ。
リヒルトの見立てだが、吸血鬼と淫魔の子であろう。

サキュバスと呼ばれる、男を誘惑させる悪魔がいた。現物を見たことはないが、伝えられている書物の挿し絵と女の特徴が一致している。

雄の吸血鬼の寝床に入り、そのまま子を孕む。産んだ子は捨てられ、淫魔はまた次の雄のもとへ。捨てられた子は育てる者いなければ死あるのみだが、どういった経緯なのか、この女は生きてしまった。

生き地獄の中で成長してしまった。

罵られ、虐げられ、嘲笑される。
されども、女は吸血鬼だと名乗っている。証である牙も持っている。

「私も吸血鬼です!だから、きっとーー」


きっかけさえあれば、受け入れてくれるーー優しくしてもらえるんだ。

それが間違いであるとの事実に目を背けながら。

「お前が一番分かっているだろうにねぇ」


足を進める。
人が近づくだけでも、硬直してしまう体は、暴力を刷り込まれたのだろう。

胸元に手を置き、瞼を強く閉じている。

「人の中に虫がいれば、潰したくなるものだろ?しかもかそいつが、自分はお前たちの仲間だと喚くものならば」

「ーー」

証拠だと言う、虫には不釣り合いな牙を抜きたくもなる。

察した細い肢体は、力をなくして崩れ落ちる。

リヒルトはその横を通り過ぎた。

背後からすすり泣きが聞こえようとも、頭にあるのは今日のスケジュール。

変わることのない自身の行動。
規則的に動く機械(道具)は、それらしくあることに何の疑問も持たない。

ただーー

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