Special to me
"まぁ、好みもありますから、ビニール傘だけを提供しているんですけどね"と、後から付け加えた駅員さん。

「大丈夫です。私は走って帰りますから」

人の親切がイマイチ信用できない私。

いつものクセで断わろうとすると、

『その紙封筒、濡れるとヤバいんじゃないですか?』

"ヤバい"という言葉は駅員としてはダメなんじゃない?

そんなことを思いながら黙っていると、

『早く受け取ってください。次の電車が来てしまうので、僕、ワンマンに戻らないとならないのです』
「ワンマン?」
『あそこです』

駅員さんが指差したのは、改札口のところに立っている駅員の定位置の場所。

そして、無理矢理突き付けてきたので、仕方ないから受け取った。

『お礼はいらないですよ。では、気をつけてお帰りください』

と、私に笑顔を見せる駅員さん。

「はい・・・」

私はその笑顔にくぎ付けになった。

・・・凄く、凄く、キレイな笑顔だった。

普通の顔の時は感じなかったのに、笑顔になったらキュンと来た。

時刻は午後11時。
私の心が、大きく動き出した瞬間だった。
< 3 / 255 >

この作品をシェア

pagetop