ウェディングドレスと6月の雨
 穂積さんは淡々と具体的な時間を告げる。ペラペラと紙の捲れる音もしたから、あの革のシステム手帳を広げてるのだろう。


「月曜日の朝は忙しいので」
「そうか。そうだよな。じゃあ今日は……」


 そう言いかけて穂積さんは言葉を止めた。


「……俺と会社の外で会うのは嫌だよな」


 音までは聞こえなかったけれど、穂積さんが髪をかきあげるしぐさが目に浮かんだ。きっと、私の言葉を真に受けて、2人で会うのを躊躇っている。


「いえ……嫌じゃないです」
「いいのか?」
「はい。あの、これから伺ってもいいですか?」
「あ……ああ。じゃあ駅まで迎えに行く」
「お願いします。じゃあ」


 私は画面をタップして通話を切り、もう一度グラスに口を付けて炭酸水を飲み干した。シュワリと焼ける喉、飲み込んだ後の爽快感。立ち上がってクローゼットの扉を開けた。初秋、何を着よう。穂積さんに会う。焦げ茶にブルーのラインのアクセントがあるチュニック、膝下のスパッツ。髪は高い位置でおだんごにしよう。そしたら気分も上がる。

 穂積さんに告白しよう……そう思ったから。


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