ウェディングドレスと6月の雨
「何って、何か」
「穂積さん、タイプなの?」
「え?」
「慌てる辺り怪しい。成瀬さん頑張れ」
「ち、違います。ただ、誤解されやすい人なのかなって」
「わー、穂積さんと成瀬さんが付き合ったら特ダネよ、特ダネ!」
「だから……」
先輩はニタニタ笑いながら、はいはい、この位にしとくわね、と言った。
「でも」
「でも、何ですか、先輩」
「不倫してる人って不倫癖が付いてるから気をつけた方がいい」
「不倫癖……ですか?」
「そ。不倫って甘くて美味しいらしいわよ、結婚とか責任が無い分。ハマるみたい。それとバレたら大変っていうスリルもね。スパイスっていうのかしら」
「そうですか」
「あと、酔っちゃうタイプ? 私は奥さんより後から知り合ったの、可哀相なの私~、って。私の友達にもいるわよ。呆れちゃうけど。そうそう、先々月の社内報に写真でてたわよ。本社レクリエーションでバーベキューしてる写真。見る?」
先輩は壁側にあるスチール棚に行き、そこから今年の社内報のファイルを引き出した。私はそれを受け取ってデスクで広げる。掲載されていた写真の中に一人、お腹の大きいひとがいた。きっと神辺さん……。年は穂積さんより上っぽいけど、綺麗なひとだ。
定時のチャイムが鳴る。ほらほら成瀬さんも早く上がらないと課長に怒られるわよ、と退勤を促す。私たち事務職は残業はあまり喜ばれない。会社としては残業代が惜しいらしい。課長に咳払いをされて私もパソコンの電源を落とした。