ウェディングドレスと6月の雨
 マグを持つ穂積さんの手、指。マグに口付ける穂積さんの唇。あの手が指が唇が私のあちこちを這ったのかと思うと、駄目だ、恥ずかしい……。

 そして一番、照れくさいのは。



「弥生」


 下の名前で呼ばれること。耳がこそばゆい。


「はい」


 返事をして、ゆっくりと顔を上げる。今度は穂積さんが俯いて髪をかきあげていた。


「昨夜は」
「ゆ、昨夜?」
「……ありがとう。ありがとうってのも変だけど」


 ありがとう、確かに変かもしれない。でも私にとっても“ありがとう”だし。それは気持ち良かったから、とか、やらせてくれた、とかじゃないのは分かってる。お互いにお互いの領域にお互いが入り込んだ、という意味で。それはお互いにお互いが一番だから、ということだと解釈して。

 穂積さんの過去を全て忘れた訳じゃない。それとは違う、何か。神辺さんには私はこれからもヤキモチを妬くとは想うけど、それも恋のスパイスだと割り切れる自信がついた。

 私は首を横に振った。



「ううん。私こそ……ありがとうございます」


 穂積さんはクスクスと笑う。


「また、抱いていいか?」
「……はい」
「じゃあ早速」
「えっ?? や、あの……んっ」


 顎を摘ままれて、唇を塞がれて。


「あの、明るいですし、昨日の今日で」
「喋るな」


 いつもの軽い軽いキス。

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