ウェディングドレスと6月の雨
会議室は私と穂積さんだけになった。妙な緊張感が支配する。穂積さんは椅子に座って今日の資料を見直している。話しかけづらいオーラ、でも。
「穂積さん、都合のいい日と時間を……」
「ああ。ちょっと待て」
穂積さんは資料を捲る手を止めて、鞄から手帳を取り出した。分厚いシステム手帳、カバーは焦げ茶の革素材で使い込まれてこなれて柔らかい感じだった。大きな手で捲っていく。今週のページ、文字でギッシリと埋まっていた。一枚捲る、翌週。ここも文字でいっぱい。それでも時間の隙間が無いか、穂積さんは指で文字を追っている。
「済まない。日曜しか空いてない」
「じゃあこれから」
「いや、接待があるんだ。もう行かないと」
「なら日曜に。私、総務課に戻ったら休日の利用申請してアラームを預かっておきます。時間は……」
「それも面倒だろ。日曜ならうちに来ないか? 嫌なら別のスペース探しておく」
「え……」
穂積さんはペンを持つと、日曜の欄に私の名前を書き込んだ。私はどう返事していいか分からず、それをじっと見つめる。