ウェディングドレスと6月の雨
「続けて」
「はい。広報の高田さんによると、窓口に寄せられた顧客にご指摘いただいた問題点は……」


 自分の視界に穂積さんが入る。タブレットを操作する指、腕時計の巻かれた手首。そしてその操作する腕が不意に私の腕にも触れた。どことなく感じてしまう罪悪感。仕事なのだから仕方ないことだけれど。

 資料の中盤、一区切りついたところで穂積さんはタブレットを資料の上に置いた。


「一息いれよう」
「はい」
「コーヒー、飲めるか?」
「はい。お砂糖があれば」
「甘党か」
「すみません」
「謝らなくていい。趣味嗜好なんだから」


 穂積さんは立ち上がり、カウンター向こうのキッチンに向かった。幅のある肩、背中。その神辺さんという女性は彼の背に手を回したりするんだろうか。穂積さんの手がコーヒーメーカーの蓋を空ける。そして紙フィルターを棚から出すと縁を織り込んだ。


「あの」
「何だ」
「ひとつ、おうかがいしてもいいですか?」
「ああ」


 フィルターをセットし、今度はその手でキャニスターを開けた。中からプラスチック製のスプーンを取り出し、粉をすくう。


「……噂は本当ですか?」
「何の」
「不倫してるって」


 穂積さんの手がピタリと止まった。


「……ああ」


 静かに呟くと穂積さんの手が再び動き、挽いたコーヒー豆の粉がサラサラとメーカーに落ちる。

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