ウェディングドレスと6月の雨
 穂積さんはゆっくりと右腕を下ろした。左手で掴んでいた高田さんの胸倉を突き飛ばすようにして離した。高田さんは軽くよろけて数歩下がり、こらえて留まると胸元のネクタイを直す。そして無言で会議室を出ていった。


「……今日の会議の内容をお伝えします。明日の摺り合わせも兼ねて」


 穂積さんは力を抜くようにぐったりと席に掛けた。私もプロジェクターの電源を入れ、準備をする。室内の照明を落とすと空気までどんよりした気がした。

 18時。晴れていれば明るい窓も今日は暗い。時折雷の閃光が会議室の壁を照らす。その光は同時に穂積さんの顔も照らした。思い詰めたような、重い表情。


「さっきは済まなかった」
「いえ……」
「1年も経つのに噂は消えないもんだな」


 穂積さんは髪をかき上げた。


「あのワンピースは……」
「俺の前でウェディングドレスが着たいって言うから、買ってやった」


 やっぱり、ウェディングドレスの代わりだった。


「悪乗りして高原の教会まで行って……どうにかなりそうだった」
「何故、別れたんですか?」
「……手に入れられないなら、手放そうって思った。一緒にいるのが辛くなった。それだけだ」


 まだ、彼女への気持ちは残ってる。俯く彼は神辺さんを思い出してるんだろうか。ドレス、教会。その神辺さんという女性はドレスを着て笑ってくれただろうか、それとも泣き出したんだろうか。お互い、強く強く想っていたことに間違いは無いだろう。それが正しいか間違いかは別としてだけれど。


「忘れたいのにな……。アンタだとつい口が軽くなる。つまらない話で済まなかった」


 そう言って、穂積さんは手元のタブレットに電源を入れて操作し始めた。

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