ウェディングドレスと6月の雨
「いえ……。初めてのことで緊張して」
「そう。私も初めてのプレゼンは緊張したなあ。懐かしい!」


 先輩は両手で私の肩を掴み、揉む真似事をした。プレゼンも初めてだけれど、先の無い恋をするのも初めてで。忘れよう、忘れよう……。そう頭の中で繰り返していた。



*ー*ー*

 自宅に帰る。スーツを脱ぐ。ハンガーを取り出そうとクローゼットを開けると視界に入ったのは紙袋。


「……」


 私はその紙袋を拾い上げた。口を開いて中を覗く。僅かに反射する白い光、その柔らかい光に誘われて私は中に手を伸ばして掬い上げた。そしてクリーニングの袋からそっと取り出す。

 スルリ、ひらり、さらり……ふわり。たちまち広げられたワンピース、思わず自分の胸に当てる。そしてクローゼット扉の内側に取り付けられた姿見を見た。


「綺麗……可愛い……」


 彼女が着たワンピース。穂積さんに買ってもらったウェディングドレス。



「……っ」


 品のいい、可愛いワンピース。私のためのものじゃない。彼女の、神辺さんの……。


「穂……穂積さん……穂積さんっ!」


 私はワンピースを抱きしめて、そのまま泣き崩れた。

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