ウェディングドレスと6月の雨
 私の頭のてっぺんにふんわりと置かれた。そしてその大きな手はポンポンと私の頭を叩く。


「はい」


 そう返事をすると、穂積さんの手は下ろされた。


「じゃ。臨時企画室秘書さん、お疲れ様」
「穂積さんも……」


 穂積さんは給湯室を出て行く。これで見納めになる、穂積さんの姿。その背中が見えなくなった次の瞬間。


「なあ」


 再び入口から穂積さんの顔が飛び出した。


「はい」
「打ち上げ、しないか?」
「打ち上げ……ですか?」
「ああ。今夜は無理だから週末でも。アンタが空いてれば」


 お誘い。切なくて痛んでいた胸が今度はドキドキして痛くなる。


「あ……あの」
「嫌か?」
「いえ」
「いつがいい?」
「いつでも」
「モテないんだな」
「はい……ええっ!」


 クスクスと笑う穂積さん。からかわれた。社内でこんな笑顔を見るのは初めてだ。会議室も給湯室も誰もいないからかもしれない。私だけに見せる笑顔、そして今が最後じゃないことに嬉しくなる。


「じゃあ、メールする」
「待ってます」
「行きたいとこあったら教えて」
「穂積さんにお任せします」
「じゃあ、ピンサロ」
「ええっ!」
「冗談」


 穂積さんはケタケタ笑いながら給湯室の入口から消えた。

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