ウェディングドレスと6月の雨

「どう?」
「素敵です」
「良かった。ビール飲めるか? 甘いもんがいいならカクテルを」
「じゃあ、甘いフルーツ系のをお願いします」


 穂積さんがカウンターの向こうのマスターにカクテルを注文する。私は店内を見渡した。テーブル席が3つ、カウンターにスツールが5つ。こじんまりした店内の壁は白く、あちこちに海の写真や青い浮き輪が飾られていて、どうやら海の家を再現しているらしい。投網みたいなものも天井に掛かっている。そこにはサザエなどの巻き貝も絡んでいた。

 運ばれてきたグラスを持ち、乾杯する。淡いオレンジ、底にいくほど赤味を帯びるグラデーション、穂積さんは黒ビール。ともに細長いシャンパングラスだ。


「お疲れさま」
「お疲れさまでした。そしておめでとうございます」


 カチン。薄いグラスが甲高く響いた。その軽快な音も綺麗で。グラスからは甘く爽やかなフルーツの香りが鼻を突く。一口含むと炭酸が舌を刺激して、あとに桃と柑橘類の甘みがやってきた。


「甘いのにさっぱりしてる」
「ピーチベリーニのアレンジ。ここのオリジナル」
「美味しいです」


 穂積さんはにっこりと笑う。会社とは別人。きっと彼女にもこんな笑顔を向けてたんだろうと思うと胸がチクリとした。


「素敵なお店ですね」
「得意先の人に連れてきてもらって。気に入ってもらえたなら良かった」
「彼女とも来ました?」
「ああ、2回だけ」
「そのときもこれを?」
「ああ。この店の一押しオリジナルって言われたからな」
「そうですか……」


 私はごまかすようにグラスに口づけた。

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