おにぎり屋本舗 うらら
小泉がやっとうららを離した。
男を追おうとはせず、舌打ちした後溜息をついた。
小泉は携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛ける。
「俺だ。悪い、しくじった。気付かれたかもしれねぇ。
いや、追うな。今日は警戒して取引しないだろう。
仕切り直しだ」
電話を切り、小泉はうららを見る。
まだ驚きの中にいるうららは、身動きできずに固まっていた。
小泉はうららの口にペッタリと張り付いている、自分のハンカチをはがしてポケットに仕舞った。
自由になった唇で、うららが独り言のように呟く。
「キ…キスされた…」
「ハンカチ越しだろ。気にすんな。
それよりお前に言っておくべきことがある。
頼むから、街中でお巡りさんと呼ぶな。
声掛けるなら、小泉と呼べ。
お前のせいで、付けてんのがバレた。
クソッ…尾行に失敗したのは初めてだ…」