おにぎり屋本舗 うらら
小泉の前を歩いていたジャンパーの男が、足を止めて振り向いた。
その様子に小泉は焦っていた。
ジャンパーの男を気にしながらも、素知らぬ振りでうららに驚くことを言う。
「由美、会いたかった!」
小泉はうららを抱きしめる腕に力を込める。
筋肉質な胸に顔を押し当てられた状態で、うららは喋る。
「私、由美じゃな…」
小泉の舌打ちが聞こえた。
密着状態から少し体を離した小泉、
その顔を見上げた途端に、うららの唇に何か柔らかい物が押し当てられた。
目を見開くうららの視界に映るのは、至近距離にある小泉の端正な顔だった。
後頭部と背中に腕が回され、彼の前髪がうららの額を撫でた。
通りすがりのOL二人組が、
「道端でキスしてる…」
「バカップルだ…」
そう話しながら通り過ぎた。
驚く行動を取る小泉は、うららに口づけたまま、鋭い横目で周囲を伺っていた。
小泉が気にしているのは、ジャンパーの男。
彼は数メートル先で立ち止まり、観察するように小泉を見ていたが、
急に走り出し、逃げるようにビルの向こうに消えて行った。