幸せの花が咲く町で




「……それでね。
来てくれたのは、山野さんっていう人で、あの花屋さんのオーナーの奥さんなんだって。
お菓子とお花まで持って来て下さってね……」

「そうなんだ。
ただのお客に、そこまでしてくれるんだね。」

このあたりは、けっこう大きな家が立ち並ぶ住宅街で、だからといってつんとすましたお高い雰囲気があるわけではないものの、下町という雰囲気でもない。
なのに、たかが店のお客というだけで、そこまでしてくれるのは、ありがたい反面、どこかおかしな気がした。



「母さんは誰からも好かれる人だったもんねぇ…」

「……そうなの?」

「そうだよ。
私が子供の頃からずっとそうだったよ。」

「……そう……」

なっちゃんにそう言われても、僕にはピンと来ていなかった。
明るくて気さくな人ではあったから、好かれるのは当然かもしれないけど、僕はそんなことを具体的に感じたことはなかった。



(僕は、母さんの何を見てたんだろう……)



なっちゃんは気付いてたことを僕は気付いてなかった。
そんなことを思うと、また一つ、僕の自己嫌悪の原因が増えてしまった。



「関係ないけど、優一…今度、自転車の空気入れ買っといてよ。」

「え…あぁ、わかった。
なんだ、もう少し早く言ってくれたら、今日買って来たのに……」

「だって、今思い出したんだもん。
自転車の空気が……」

「あ、僕、この前、おばちゃんの子供見たよ!」

小太郎が突然大きな声でそう言った。



「おばちゃんって……花屋さんのあのおばちゃんのこと?」

「うん。スーパーの近くで見た。
皆で自転車に乗ってたんだ。」

「へぇ…こたより大きい子供?」

「うん、小学生くらいの子供。」

「でも、なんでその子がおばちゃんの子供だってわかったの?」

「だって、おばちゃんにかーちゃんって言ってたもん。」

篠宮さんは40くらいだろうから、そのくらいの子供がいても不思議はない。
今まで篠宮さんから子供の話はおろか、家族の話はほとんど聞いたことがなかったから、もしかしたら不仲なんだろうかと思ったりもしていたが、小太郎の話ではそうでもなさそうだった。
小さな子供にはそういうことはよくわからないのかもしれないけど……
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