幸せの花が咲く町で
「じゃあ、あんた達はあっちでテレビでも見てて。」

夏美さんはそう言いながら、テーブルをもとのサイズに戻した。
テーブルには、堤さんと夏美さん、私と翔君ママの大人四人が残った。
私の真向いが翔君ママだから、ちょっと気まずい。



「さて…と。
今日、香織さんに来てもらったのは、まいちゃんからちょっと話があるからなんだ。」

まいちゃんというのは翔君ママのことだ。
夏美さんは翔君ママとは仲が良いらしく、彼女のことを「まいちゃん」と呼ばれていた。



「あ、あの……」

そう言ったっきり、翔君ママは俯き、動きが停まった。



「まいちゃん!頑張れ!」

夏美さんが翔君ママの背中を優しく叩いた。



「ご、ごめんなさい!」

翔君ママは、テーブルに額をこすりつけるように頭を下げた。
私と堤さんがびっくりしていると、翔君ママは顔を上げ、ぽつりぽつりと話を始めた。
それは、オーナーの奥さまに告げ口した例の話……



「本当にごめんなさい。
私…あの時は本当にどうかしてて……
昔の自分の記憶がよみがえって、おかしくなってたんです。」

「昔の記憶って……」

「実は……私、19で翔を産んだんですけど、旦那も同い年で…今思うとまだ子供だったんですよね。
旦那はほとんど働きもせずに遊んでばかりでした。
だから、私は、翔を母に預けてすぐに働き始めて……」

翔君ママのご主人はお会いしたことはないけれど、翔君ママが年の割にしっかりしてるように思えるのは、若い頃から苦労してるせいなのかもしれないと思えた。
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