幸せの花が咲く町で




それからしばらくした年の暮れ……
僕達は、なっちゃんが準備してくれた花屋の顔合わせの食事会に呼ばれた。
場所は、河北洋二の店の個室。



「さすがに美味しいわね!」

「このお皿、きっとすごく高いんでしょうね。」

皆、少し緊張しながらも、次々に運んで来られる豪華な料理を堪能した。



「山野さん、すみません。
本当は二日前には向こうに行かれるところだったんでしょう?」

「いいのよ。
山野とサトシは先に行ったんだけど、ここでの食事会だって聞いてすごく残念がってたわ。」

山野さんはそう言って、くすっと笑われた。



「ところで、堤さん……いつごろから来られますか?」

「そう…ですね。
来年の春前には……」

「来年に入ったら、外観を少しだけ変えようと思ってるんです。
それほど大がかりなものじゃありませんから、そんなに日にちはかかりませんが……」

「その間は休みになるんですか?」

「いえ、いろいろと雑用があると思いますので、よろしくお願いします。」

僕は改装のことも詳しくは知らなかったけど、なっちゃんと亮介さんの間ではいろいろとプランが出来ているようだ。



「今まで仕入れは俺と慎吾さんでやってたんですが、これからは俺一人でってことになりますか?」

「もう一人、必要ですか?」

「あ……あの、岡崎さん……
良かったら私を連れて行ってもらえませんか?」

突然、篠宮さんがそんなことを言い出した。



「仕入れは朝が早いし、大変な仕事だぜ。」

「なんならこれからは仲卸さんから買うって言う手もあるわよ。」

「大丈夫です!
私……やってみたいんです!」

いつも物静かな篠宮さんには不似合いな、情熱のこもった言葉だった。



「でも、私もいなくなるわけだから、接客も減るわけだし……
堤さんも慣れるまでは、しばらくかかるでしょうし、やっぱり篠宮さんは今まで通り、接客をしといた方が良いんじゃないかしら?」

「大丈夫です!
私……今までにも掛け持ちで働いたことありますし、体力にはけっこう自信があるんです。」

「あ、そうだ!
接客には一人あてがあるよ。
まいちゃんが、翔君が小学校に入ったらパートを探すつもりだって言ってたんだ。
花屋の経験はないみたいだけど、接客はずっとやってたらしいから……」

僕には特に反対する理由もない。
どうせ、僕は単なるお飾りのオーナーなんだから。
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