幸せの花が咲く町で
私は、その晩、居酒屋をやめることを話した。
それと、事情は話さずに、もし、誰かが私のことを訪ねて来ても、黙っておいてほしいと店長に頼んだ。



もしかしたら、バレるかもしれない。
うちの会社は別にアルバイト禁止でもなんでもないから、バレたからって何の問題もないのだけれど、岡村さん達に怪しまれたらと思うと、やはり不安でたまらなかった。



だけど、月曜になっても岡村さん達の態度はなにも変わらなかった。
ほっとした……
店長が黙っておいてくれたのか、岡村さん達が聞かなかったのかはわからないけど、そんなことはどちらでも良い。



私は、自宅の最寄り駅近くのコンビニでバイトを始めた。
母は、夜は滅多に外には出ない。
近所に友達もいないから、バイトのことはバレることはない。
居酒屋より多少時給は下がるものの、借金はあと少しだし、問題はなかった。
時給が安い分、仕事もずいぶん楽になったし、不満はなかった。







「篠宮さん、どう?
彼氏とはうまくいってる?」

「え…えぇ、まぁ……」



ようやく、借金を完済した頃、また岡村さんからそんなことを訊ねられた。



「彼氏と付き合い始めてから、もうけっこう経つよね?
もしかして、結婚の話とか出てる?」

「ま、まぁ…出るような出ないような……」

「えーーーっ!良いなぁ……
篠宮さん、結婚するんだぁ!」

「な、なにもすぐってわけじゃないわ。
そんな話がちらほら出て来始めたってだけよ。」

「何言ってんのよ。
そういう話は意外と早くまとまるものらしいわよ。
そうじゃないと、時期を逃してしまうなんて言うし……
篠宮さん!チャンスを逃しちゃだめよ!
早く決めちゃいなさい!
あ、お式には、もちろん、私達も呼んでね!」

からかっているのか、本当に励ましてくれてるのか……
私には岡村さんの真意がわからなかった。

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