幸せの花が咲く町で
「ねぇ、篠宮さん……
彼との結婚はあれからどうなった?」



その後も岡村さんは度々そんなことを私に訊いた。



そんなに深刻に考えることはないのかもしれない。
適当に流しておけば……

だけど、私にはその他愛ない質問が酷く重いものに感じられた。


私には彼氏なんていない……
結婚なんて出来るはずもない。
それはこの先もずっと……



(私みたいに身勝手で愚かな人間を、もらってくれる人なんているはずがない……)



そう思っていたせいか、岡村さんに結婚の話を持ち出される度に、本当に気持ちが滅入った。



別れたといえばそれで済むのに……
結婚間近のカップルが別れることなんて、そう珍しいことでもないのに……
それでも、私はそうは言えなかった。

嘘を吐き通した……
結婚間近の幸せな女を演じ続けた……



だけど、そのうち、それがどうにも苦しくなって……



私は誰にも言わずに、ひっそりと会社を辞めた……




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