エンビィ 【完】




“でないと貴重な機会を失う。金では絶対に買えないし、どんなに請うても与えてはくれない”




――――そうぼやいた伊織



向かい合ってピアノに座る2人は、息がピッタリで。隣にいたアイリーンですら、固唾を飲んでそれを聴いていた。


ユキノは鍵盤に目を這わせ、口許に弧を描きながら弾く。

数時間前と変わらない、ラフな格好のピアニストは、そんなユキノを、片時も目を離さず、演奏している。



ユキノは、繊細に。

ピアニストは、大胆に。



混ざり合う音は、

文句のつけようがないほどに―――美しい。



――――伊織は…?


手すりを握りしめてその姿を探すも……いない。

溺愛する妹のそばにあるだろう姿を必死に探し回るあたしは、なんて滑稽。




< 107 / 195 >

この作品をシェア

pagetop