エンビィ 【完】
「悔しい!悔しいの!あたしがどう頑張っても、みんなはユキノをみる。ユキノは女のあたしから見ても……悔しいけど…綺麗………でもそれだけじゃないっ!ユキノにはその美貌だけじゃなくて、生まれたときから地位がある! たとえばっ……あたしがユキノより優れた部分があったとして、でも結局は……最後には、あたしたちのルーツで判断する…………だから、あたしに無いものを生まれたときから持っているユキノが憎い!憎くて堪らないのよ!!」
百瀬の首に抱き着いて吐いた言葉は、くぐもってその背中に吸収されていく。
化粧が落ちるのも、化粧で百瀬のスーツが汚れるのも気にせず背中に顔をうずめた。
「俺にとってのお嬢様は、玲奈様だけです」
「っ…、……あたりまえ…でしょう…!」
―――その日。
百瀬が選んでくれた、ボロボロになった白のドレス。
ユキノがウエディングドレスみたいだと表現した、白のドレス。
それを、小瓶につめた。
黒が入った小瓶の横に並べる。その横一列の陳列は、あたしが切り刻んできた、ドレスの記録。
「………はぁ……できない…」
あたしはその白の横に、白に近いクリーム色のドレス生地を置くことができなかった。
消えることもないが、
その日から化粧台の上に小瓶が増えることはなかった。