ガラスの靴じゃないけれど


「どうやらタクシーが到着したようだな」

顔を上げた先に見えたのは、正面玄関に横付けされた黒塗りのタクシー。

揺らめく涙を指先で拭ってソファから立ち上がろうとした私の身体が、ふわりと宙に浮かんだ。

望月さんに触れられた時は、身体が勝手に拒絶反応を起こしたのに......。

彼の肩にもたれ掛かった時も、頭を撫でられた時も、そして今も、恐怖は感じない。

むしろ、何度目かわからない彼のお姫様抱っこは、相変わらず心地が良いとまで思っている自分に気付いた。

甘えるように、彼の首に腕を巻き付ける。

すると彼は白い歯を見せながら、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

「初めて抱いた時は抵抗していたくせに、随分と慣れたもんだな」

人が聞いたら勘違いされそうな言葉を平然として言い切る彼を、信じられない思いで見つめる。

「へ、変なこと言わないでください!」

「それくらい元気なら、もう大丈夫だな」

ついさっきまで子供のようにメソメソ泣いていたくせに、今はもう涙は流れない。

私を気遣って、わざと悪態をついた彼の優しさが胸に沁み入った。


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