ガラスの靴じゃないけれど


まだまだ終わりが見えない資料の山を見つめた私は、ため息を付きながらコピー機に向かっている。

30ページあまりの資料を50部製作する作業をひとりでこなすのは、いささか大変だ。

野口不動産株式会社の開発事業部は、緊張感に包まれながらも活気に溢れている。

つい二か月前までの私は、総務部で備品の管理や出張の手配。郵便物の仕分と会議室の予約管理等。挙げればきりがない雑用を黙々とこなしてきた。

その私が、どうして開発事業部などという場違いなフロアで、コピーを取っているのかというと......。

----「実は人事部からの要請で、一条くんには開発事業部のヘルプをお願いすることになった」

三月下旬のある日。

メタボを気にしている総務部長から呼び出された私が聞かされたのは、突然の異動話。

「え?四月から開発事業部のヘルプ?ですか?」

「ああ。なんでも開発事業部の人手が足りないらしくてね。程々に愛想が良くて、程々に雑務をこなせる人材を探していたらしい」


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